薬が飲みにくくなっても、自宅で痛みを和らげる治療を続けられる場合があります。その選択肢の一つが「持続皮下注射」です。
「薬が飲めなくなったら、自宅では痛みを抑えられないのでは」「注射が必要になったら入院しないといけないのでは」と不安に感じる方は少なくありません。本記事では、持続皮下注射の基本、在宅で検討する場面、導入後に気をつけるポイントをわかりやすくまとめます。
持続皮下注射とは

当院では、大研医器のクーデックエイミーPCAを使用しています。皮膚のすぐ下に細い針やチューブを留置し(針やチューブを入れたままにすること)、小型のポンプで薬を少量ずつ連続して入れる方法です。点滴のように血管へ入れるのではなく、皮下(皮膚のすぐ下)に薬を届けます。そのため、薬剤を注入するための末梢静脈路を確保しなくていいため、痛みが少なくできます。
痛み・息苦しさ・吐き気などが、飲み薬や貼り薬だけでは十分に和らがないとき、または飲み込みにくさ・嘔吐・意識の変化などで内服が難しくなったときに検討します。どの薬を、どれくらいの量で、どのように使うかは、症状や全身状態に合わせて医師が判断します。
在宅ではどのように開始するのか
使用するポンプは携帯できる小型のものです。100mlと300mlのバックがあり、薬剤を充填した状態で開始しました。開始時に皮下に細いプラスチックの針を留置し、機械を立ち上げたのちに、あらかじめ決めた流量(薬が入る速さ)で薬が入るように設定します。
訪問診療・訪問看護・薬局が連携し、ポンプの動作、注射部位、症状や副作用を見守ります。薬の残量もチェックしつつ、次回分の薬がなくならないように処方を行い、交換も医療者が行います。本人や家族様が特に何かをしなくてもいいのが大きなメリットになります。またアラームが鳴ってしまった場合にも、医療者に相談してもらうことで対処できます。地域や体制により方法は異なりますが、こうした支援が整えば、自宅で治療を続けられる場合があります。
持続的に薬を入れる方法に加え、一時的に強くなる痛みに備えて、必要時の追加投与を設定する場合があります。次に、その役割をご説明します。
一時的に強くなる「突出痛」とは
普段の痛みがある程度落ち着いていても、一時的に痛みが強くなることがあります。こうした痛みを「突出痛(とっしゅつつう)」と呼びます。体を動かしたときや咳をしたときに起こる場合も、はっきりしたきっかけなく起こる場合もあります。(米国国立がん研究所の疼痛解説)
このような痛みに備え、普段使う薬に加えて、症状が出たときの追加の薬を用意することがあります。これを「レスキュー」と呼びます。持続皮下注射でも、必要に応じて追加投与を組み合わせます。ただし、新しく生じた痛みや、いつもと違う強い症状を、すべて突出痛と決めつけないことが大切です。
エイミーPCAの「PCAスイッチ」で追加の薬を使う
当院で使用している大研医器の「クーデックエイミーPCA」には、手元で操作できるPCAスイッチがあります。PCAは、患者さん自身が必要なときに追加の痛み止めを使う仕組みです。医師がPCAの使用を設定した場合、説明された方法でスイッチを押すと、あらかじめ決めた量の薬が追加で注入されます。この追加投与を「ボーラス投与」といいます。(大研医器の添付文書)
普段の症状に対する持続投与と、一時的に強くなった痛みに対する追加投与を組み合わせることで、そのときのつらさへの対応を考えます。薬の種類や量、追加できる間隔は、一人ひとりの状態に合わせて医師が決めます。押した直後に必ず痛みが消えるわけではなく、効果の現れ方も薬や体調によって異なります。
追加投与の後には、一定の間隔を空ける「ロックアウトタイム」という仕組みがあります。この時間中にスイッチを押しても、追加の薬は入りません。短時間に薬が入りすぎないようにするための仕組みですが、副作用が起こらないことを保証するものではありません。ご本人やご家族が、流量や追加量などの設定を自己判断で変更しないでください。(大研医器の取扱説明書)
PCAスイッチは患者さんご本人もしくはご家族(や医療者)が押すことを想定しています。眠っているご本人の代わりに、ご家族が「痛そうだから」と自己判断で押すことは避けてください。ご本人が押せない、使い方の理解が難しいという場合には、その状態に合う対応を医師・看護師と相談してみてください。
導入時には、「どんな症状のときに使うか」「追加後、いつ効果を確認するか」「何回も必要になる、または十分に効かないときはどこへ連絡するか」を確認します。急な息苦しさなど、痛み以外の症状への使用も、あらかじめ個別に受けた指示に従ってください。判断に迷う症状を、スイッチだけで対処しようとせずご相談ください。
どのようなときに検討しますか
持続皮下注射は「最終段階だけの治療」ではありません。次のような場面で検討します。
- 痛みや息苦しさが続き、飲み薬や貼り薬だけでは十分に調整できない
- 飲み込みにくさや嘔吐のため、内服の継続が難しい
- 必要時の追加投与を組み合わせて、症状に合わせた調整を行いたい
- 症状を和らげながら、できる限り自宅で過ごしたい
一方で、すべての方に必要となる治療ではありません。飲み薬、貼り薬、坐薬、点滴なども含め、体の状態・生活環境・望む過ごし方を確認し、無理のない方法を一緒に選びます。在宅でどの方法が可能かは、個別に確認します。
導入から日々の生活まで
導入を検討するときは、現在の症状、使っている薬、どの程度内服できているかを確認します。そのうえで、ご本人・ご家族の希望や、訪問看護師・薬局との連携体制を踏まえて、治療方法を決めます。
導入時には、ポンプの扱い方、注射部位の保護、困ったときの連絡先をわかりやすく共有します。薬は医療者が交換しますので、ご本人・ご家族に医療的な操作をお願いすることが目的ではありません。PCAを使う場合には、対象となる症状やスイッチの使い方も、あらかじめ具体的に説明します。
ポンプを使っていても、食事をとる、家族と話す、好きな場所で過ごすなど、日々の生活を続けられる場合があります。一方で、病状によっては機器の管理が負担になることもあります。導入すること自体が目的にならないよう、その都度、症状と生活への影響を見直します。
開始後に確認すること
開始後は、次の点を確認します。
- 痛み・息苦しさ・吐き気がどの程度和らいでいるか
- 眠気・ふらつき・便秘などの全身の変化
- 注射部位の赤み・腫れ・痛み
- ポンプの表示やチューブの状態
効果と負担のバランスを見ながら、必要に応じて量や投与方法を調整します。
連絡が必要なとき
次のような変化があったら、ご家族だけで対応せず、訪問看護師や当院へご連絡ください。呼びかけへの反応が乏しい、呼吸が明らかにおかしい場合は、追加投与を続けて様子を見るのではなく、直ちに連絡してください。在宅療養で取り決めた急変時の連絡方法・対応方針も、あらかじめ確認しておきましょう。
- 追加の薬を使っても痛みや息苦しさが十分に和らがない、追加が繰り返し必要になる
- 普段と違う強い眠気や混乱がある、呼吸が遅い・浅いと感じる
- 注射部位の赤み・腫れ・痛みが強い
- ポンプの表示やチューブに異常がある
ご家族が心配しやすいこと
「注射を始めると、もう最期が近いのでは」と心配される方がいます。持続皮下注射は、飲み薬が難しくなったときや、症状を細かく調整したいときの選択肢の一つです。開始の時期や目的は人によって異なります。気になる変化があっても、自己判断で中止したり流量を変えたりせず、ご相談ください。
よくある質問
持続皮下注射はずっと続けるものですか?
必ずしもそうではありません。症状や内服の可否、治療の目的によって必要な期間は異なります。状態が変われば、薬の種類や投与方法を見直します。急に痛みが強くなって、一時的に持続皮下注射で薬剤調整を行った後に、飲み薬や貼り薬に変更した方もいますのでご安心ください。
入浴や体を動かすことはできますか?
入浴時には機械を外して入ってもらうことが多いですが、入浴前にボーラス投与を行うことで入浴中に苦痛が生じにくくなる方法をとる場合もあります。また頻回にボーラス投与を行っている場合は、機械が濡れないように注意しつつ、装着しながら入浴してもらうこともあります。体を動かすこともできますが、針はプラスチックと柔らかいため、体を動かすときに先端が抜けてしまったり、折れてしまって正常に薬剤が投与されない場合がありますので注意が必要です。入浴・清拭・外出は、事前に訪問看護師や医師へご相談ください。
どのようなときに連絡が必要ですか?
アラームが鳴っている場合や対応に困ったとき、迷ったときも自己判断せずご連絡ください。
うぐいす在宅診療所で大切にしていること
当院では、持続皮下注射を単に薬を入れる機器としてではなく、痛みや息苦しさを和らげながら「どのように過ごしたいか」を支えるための手段と考えています。仮に持続皮下注射を希望されない場合には、ほかの手段や方法を検討しますので無理強いすることもありません。ご本人・ご家族の思いを伺い、訪問看護・薬局と連携して治療を組み立てます。導入の必要性や具体的な方法は、病状やご自宅の状況により異なります。まずはご相談ください。
主な参考資料
- がんの突出痛に関する専門家勧告:The management of cancer-related breakthrough pain(PMID:18707904)
- 大研医器「クーデックエイミーPCA」製品情報および同ページ掲載の添付文書・取扱説明書(患者による追加投与、PCAスイッチ、ロックアウトタイム)
- 米国国立がん研究所「Cancer Pain(PDQ)」医療者向け(突出痛と疼痛治療)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「痛み」(レスキュー、副作用、相談が必要な変化)
